Novel

□一線
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「セナ」
「おーい!セナ!!」
「セナ君」
『アイシールド』




あいつはいつも名前で呼ばれる。
確かに小早川なんて長ったらしい苗字よりも、名前の方が呼びやすいから自然とそうなるんだろう。

「うるせぇ」
「?はい?何か言いました?蛭魔さん」



「気安く呼ぶな」



「Σ!?はぃぃっ!ごっごめんなさいっ」

……………

「お前に言ったんじゃねぇ。糞チビ」

だからそんな今にも泣きそうな面してんじゃねぇよ。
試合の時とは全く違う顔。
本当にあのアイシールド21なのかと俺でも時々思うときがある。

試合中のコイツは進や糞ドレッドまでを本気にさせる程の選手なのに、アメフトから、試合が終わると途端に臆病で小心者な糞ガキになっちまう。

普段一緒にいる俺がそう感じるなら、試合をした奴等はそのギャップにもっとショックを受ける。



そして惹かれちまう。

臆病なんじゃなくて、本当は優しいからだということにすぐに気がついて。





お前、気がついてんのか?

いくら呼びやすいからって、普通は他校の奴等が試合相手のエースを名前で呼んだりはしない。

わかってんのか?

誰にでも名前を呼ばれたら悪意なく向けられるその視線が、相手にありもしない期待を持たせることを



「…蛭魔さん……?」

さっかから黙ったままの俺を訝しんで覗き込んでくる。
「糞チビ」
「Σはい?」
いきなり話し掛けられてビクつきながら返事をしてくる糞チビに
「俺の名前呼んでみろ」
「?………蛭間さん」
ますます訝しみながらも一応俺の顔を見ながら答えた。
「違う」
「え?」
「それは苗字だ。俺は名前を呼べって言ったんだ、糞チビ」

「……………はぃ?
え?えっと…………!?」
突拍子もないことを言われてセナは動揺している。

「呼べ」
「………っ」
困り果てて俯いしまった糞チビを見て、自分の浅ましさに吐き気がした。


こいつは、あれだけ名前で呼ばれていながら、自分からは相手を名前では滅多に呼ばない。
『――さん』
『――くん』
糞ジジイや糞デブだけじゃなく、同い年の糞三兄弟や小結にもだ。

本人には自覚はないんだろうが、長いことパシリにされていたせいで無意識にそういう呼び方になるんだろう。


そんなコイツに俺を名前で呼べる訳なんてねぇ。



「行くぞ」
気付かれないように溜息をついて歩きだす。
「あっ」
いきなりの俺の行動に戸惑って後ろにいる糞チビが慌てているのがわかる。



















「……ょ………いちさん」
















いま

なんて言った?


立ち止まって振り返ると、高血圧で倒れるんじゃないかというくらい真っ赤になったアイツが拳握りしめて
目も心なしか潤ませて少し震えながら

でも

真っすぐこっちを見ていた。
相当勇気を振り絞ったんだろう。見てるっていうよりもう半分睨み付けている顔になっている。

「…糞チ「名前で呼んでください!!」
呼ぼうとしたら、いつものオドオドした声じゃなく半ば叫ぶように遮られた。

「っ僕も……名前で呼んで…ください」
さっきよりも泣きそうな、切なそうな顔してそんな事言うな。


反則だろ

そんな事をその顔で言われたら俺まで何かを期待してしまう。
勘違いしてしまうだろ。

「ひ…貴方に、呼んでほしいんです…!」


俺は黙ったままセナに向かって歩きだした。
目の前で立ち止まって

「セナ」

呼んだ途端、セナの瞳が驚きで見開き俺を見あげてくる。
「…いま、俺の名前を呼んだら、お前は俺から逃げれなくなる。それでも呼べるか?」

高速の脚でも逃れられない。
呼んでしまえば悪魔との契約――
ヨベルノカ?
















「妖一さん」


真っすぐにこっちを見てセナは呼んだ。



ケイヤクしたぞ?

俺は忠告した。
でもお前はそれを無視した。

もう止められない


「―――セナ―――」

目の前の真っ白い光りに俺は手をのばした
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