Novel

□甘い時間は…
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―チビ
(ん・・・)
――糞チビ
(蛭魔さん?)

気がつくとセナは学校のグラウンドにいた。

「あれ、今まで何してたんだっけ?」

「おい糞チビ」

どこからか蛭魔さんの声がして辺りを見渡すと、声の主は校舎の入り口に立って笑っていた。
(蛭魔さんの声ってよく通るんだなぁ)
なんて間抜けな事を考えていたら

「なにボーっとしてやがる。さっさと来ねぇと置いてくぞ」

「あっ待ってください!!」

さっさと学校の中に入っていく蛭魔さんを慌てて追いかける。
いつもなら自慢のこの足ですぐに追いつけるのに今日は何故か追いつけない。
むしろ、どんどん距離を離されていく。
(どうして!?こんなに一生懸命走ってるのに…!!)
高速の脚で階段をどんなに早く上がっても、大好きなあの人の後ろ姿が近くならない。
一瞬、後姿が見えたかと思ったらもう見えなくなるほど上の方に行ってしまっている。

「蛭魔さんっ!待って下さい!!」

走りながら一生懸命叫んでも、振り返りもしないで凄い速さで登り続けていく。

――――バンッ―――

登り詰めた先にあった屋上の扉を勢いよく開くとそこにはずっと追いかけてきた背中があった。

「酷っいで、す…よっ蛭魔さんっ!待ってって、いったのに…っ」

全速力で走ってきたため、酸素が足りず言葉が途切れ途切れになりながら話しかけると

「お前が糞遅ぇから間に合わなかったな」

「え…?………っなにっ」

まだ肩で息をしながらもそんな言葉に反応して足元に落としていた視線を上げると目の前にいたはずの彼は

「どうしちゃったんですか、蛭魔さん…?」

空に浮いていた。

「なんで!蛭魔さん!!?」

あまりの出来事にパニックになり、恋人の名前を呼びながら何とか彼に触れようとするけどその手は虚しく宙を舞い、彼はどんどん空高く上っていく。

「俺は悪魔と賭けてたんだ。お前が屋上に着くまでに俺に追いつけるかどうか。」

「賭…け?」

空に吸い込まれながら蛭魔はポツリとセナに話し出した。

「お前が追いつけたら俺たちの永遠の愛の時間を。だかもしお前が追いつけなかったら――」

「追い、つけなかったら……?」

鼓動は早鐘のように打っているのに、セナの身体は冷たくなっていく。

「俺は悪魔の世界で一生を過ごす=もう二度と会えない」

「そんな……」

そんなバカな話なんてない。

「また…いつもの冗談でしょ?もうわかりましたから早く降りてきてくださいよ!」

だって現実的に考えてありえない。あるわけがない!!

「蛭魔さ「セナ」」

静かな声で呼ばれてハッとした。

「ゲームオーバーだ」

冷たい目線がセナを見つめていた。心が凍ってしまうような見限るような、でも、酷く哀しい色を湛えながら。

「や…だ…っ蛭魔さんやだ!!行かないで!!」

もうどんなに手を伸ばしても届かない空の先にいる彼の姿が消えていく。

「待って……!!!」





―チビ
(待って…)
――糞チビ
(連れていかないで…)

「おいセナ!!!!」

「やだぁぁぁぁぁぁぁっ」

「――っ!?」


………………

「…あれ、ここ…?」

「お前、どんな夢みてやがった」

「ゆ…め…?」

(夢…)

「おい?」

「っ!!蛭魔さん!!!!」

「何なんださっきから…」

「どこも行っちゃだめです…!!」

普段は自分から決して抱きついたりしてこないセナが目が覚めるなり自分に抱きついてきた事に驚きながらも、何かに怯えている恋人を宥めながらさり気なく事情を聞きだす。

「あ、あの、実は…」

落ち着きを取り戻したセナがさっきまで見ていた哀しくて恐ろしい夢をポツリポツリと蛭魔に話して聞かせた。
落ち着いてきたぶん、取り乱した自分が恥ずかしくなってきたらしく最後は真っ赤になっいた。

「でも、本当に怖かったんです。もう二度と会えないって…夢でよかった。」

「お前はいつまでたっても馬鹿だな。俺がそんなに素直に悪魔に従う訳ねぇだろ」

「い、言われてみれば…」

(確かに蛭魔さんなら悪魔にもはったりとか平気で使いそうだな)

「でも、何であんな夢みちゃったんだろう」

「あー?糞マネの話でも聞いたからだろ」

「マモリ姉ちゃんの?」

そういえば朝の電車の中で今日が七夕だって教えてもらって、織姫と彦星の恋物語を聞かされた。
女の子が好きそうな話だなと思いながら、蛭魔さんと年に一度しか会えなかったら…?とか考えたっけ。

「そっか、だからかぁ」

「ま、お前残してなんてんなこたぁ死んでも起こらねぇから安心しとけ」

「!!はいっ」

恋人の力強い言葉に嬉しさと安堵で頷きながらセナは思った。

好きな人と一緒にいられる事はそれだけでなんて甘くて幸せなんだろう。
(ずっと一緒です、蛭魔さん)

今日は七夕
織姫と彦星の年に一度だけの逢瀬が幸せな時間でありますように。。。




End.
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