Novel

□Drug?
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「看護士になろうかな…」

「あぁ?」


学校の屋上での昼下がり、無意識に小さく呟いた言葉に返事が返ってきた。

「何で看護士なんだよ」

突然の言葉に蛭魔さんが不思議そうな顔をして僕を見ている。

「悔しいから、かな」

「悔しい?」

ますます訳が解らないという顔で僕を見る蛭魔さんの右腕には、真っ白な包帯が巻き付けてある。

「傷は痛みますか?」

「別にたいした事ねぇ」

「そうですか…。」

「…セナ?」

僕はそっとその傷に触れながらやっぱり思った。

――悔しい――


「…僕の知らない人が」

こんな事を言ったら呆れられるだろうな。

「蛭魔さんの腕を触って、僕よりも蛭魔さんの体の事を知っているのは…すごく、悔しいです。」


蛾王くんが蛭魔さんに怪我をさせた時もそうだった。
誰よりも一番に側に行って手当をしたかった。
なのに応急処置の仕方も解らないし試合もあって、結局蛭魔さんの側にいたのは僕じゃなくてまもり姉ちゃん。
あの時、大好きなはずのまもり姉ちゃんが、すごく嫌な人に見えた。

(近寄らないで)

(触らないで)

―そこは僕の場所だから―


最低で身勝手だと頭では解ってる。
でも心は解っていなくて、汚くて黒い感情でいっぱいになっていく。

誰かを好きになるという事は、自分の醜さを知るという事。
今まで眠っていた感情が心から滲みだして、じわじわと僕の体や脳に送り込まれていく。

そして気が付いた時には全身にその感情が広がっていて、すでに末期状態だった。

蛭魔さんに

近付く人は嫌い

みんな大嫌い


話しかけていいのも
隣に居ていいのも
触っていいのも



――全部、僕だけ――



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