「蛭魔さん」
「あ?」
「手、繋いでもいいですか?」
【距離】
下校途中にいきなりの申し出。
赤面症で糞恥ずかしがり屋のセナが。
しかも俺達の周りにはリーマンや学生がちらほらいる土手沿いという人目のある場所で。
普段のセナなら恥ずかしがって絶対にそんな事を言い出したりはしない。
「…ダメですか?」
黙ってしまった俺を見上げてくるその顔は、赤面のかわりにどこか寂しげで不安な色を含んでいる。
「…来いよ」
手を差し出してやると安堵したような、どこか焦っているように指を絡めてきた。
しばらくそのまま黙って歩いている間、時々何かを確認するようにギュッと握り返してくる。
「何かあったのか」
コイツの事はいつも見ているつもりだ。
普段は大体何があったのかは見当がつくが、今回はその原因がわからない。
(糞…情けねぇ)
「ずっと傍にいてくださいね」
「…あ?」
「いつでもこうやって手を繋げる距離にいてください」
「セナ?」
自分の不甲斐なさに苛つき始めた頃にセナからの突然の言葉。
なぜ突然そんな事を言い出したのかいよいよわからなくなってきた俺は、立ち止まりセナを見つめる。
「僕は弱いからずっと会えなくなるのも、こうやって触れられなくなるのもきっと耐えられない。」
そう言いながら握ったままの手を自分の胸元まで持ち上げてさらにキツく握りしめる。
「だから、アメフト一生懸命頑張ります!!」
「………は!?」
セナが言っている事が全くわからない。
(会話、ちゃんと成り立ってるのか?)
一度話しの内容を確認しようとした時にセナが続けて喋りだした。
「織り姫と彦星みたいに引き離されなされたりしないように努力して、こうやって毎日蛭魔さんといられる距離を死守します!」
(な〜るほど…)
キッと俺を見上げて宣誓するセナの一生懸命な目をみてようやくコイツが変な理由がわかった。
「あの、蛭魔さん…?」
また黙ったまま自分を見つめてくる俺を不安そうに見つめてくる。
「ケッ!女みてぇな事言ってんじゃねぇよ」
「!だっだって僕は…っ」
「神だろうと悪魔だろうとこの距離以上離させねぇ」
「!」
「俺だけを信じていればいい。だろ?」
「…はい!!」
照れた笑い顔、握り返してくる温もり、純粋な言葉。
いつでも真っすぐな糞チビ。
そんなコイツを俺は愛しいと想う。
End.