■L.Novel
□流れ行く運命の中で
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何を拾ってきた?
What has been gathered?
静かな時間
一人がけのソファーに座りゆったりと本を読んでいる。
腰まで長い銀髪を軽く邪魔にならないように結わき、サイドテーブルには珈琲が置いてある。その美眉が何か聞きたくないものを聞いたかのように歪む。
「また、あいつか」
栞をはさみ、本をサイドテーブルに置く。
数秒もたたないうちに、ドアのロックが解除され慌しい音共に入り込んでくる。
「旦那ぁー、ちょっとバスルーム借りるぜ」
部屋の主が確認する間もなくバスルームに消える黒髪。
騒がしい音が、バスルームから聞こえる。
「ほらっ、ぬいじまえ」
「あーあー、こりゃだめだ」
バスルームでの騒ぎが、かってに聞こえる。
あいつは、いったい今度は何を持ち込んだんだ?
小さな溜息をつき、部屋を見渡す。ごちゃごちゃといろいろな物が置かれているのは、スノーボードやバイクの部品。それに、脱ぎ散らかした服などetc…あいつはかってに来ては、ゲストルームに何やら持ち込んでいる。仕方なしに、バスルームへ向かう。
「入るぞ」
「うわー、今入るなー」
って、遅かったか。
ザックスは服のまま。
熱いシャワーが出ているが、その腕の中には泡だらけの物体を抱えるようにしているが、突然勢いよく動いたかと思えばするりと抜け出しバスルームからそのまま出て行ってしまう。
「旦那ぁー」
「……何だ今のは…」
旦那と呼ばれたのは、もちろん神羅の英雄セフィロスである。セフィロスは、視線をザックスに戻し眉間にしわ寄せ見る。
「また野良猫でも拾ってきたのか?ザックス」
「まぁ、そうと言えばそうだし…」
ザックスは、苦笑いをしながら頭をぼりぼりかきセフィロスを見るがその足元の床には転々と、泡や水が床に水溜りを作っている。
「これ誰が掃除するんだ?」
「旦那?」
頭を叩かれる。
水溜りは、転々とソファーの後ろに続いている。その水溜りの行き先に行き、セフィロスは腰を屈めてソファーの後ろを覗き込むと蒼い瞳と視線が合う。
「おい」
「この猫は、何の種類だ?」
ザックスに首だけ向けながら、冷めた笑みを浮かべザックスは、汗をたらたらと顔から流している。
「いっ…いやぁ、あのぉともかくこいつ洗っちまわないと」
ザックスは、ソファーの後ろに回り抱えてバスルームに消える。
「人間の子供拾ってくるとは…あいつは猫と人間区別もつかんのか?」
仕方なしにモップを持ってきて床を拭き始める。
ザックスが、バスルームから出てきた途端ゲストルームに入るなり、自分のTシャツを手に持ちまた走り去っていった。
「ああっ、こらそのまま出てくるな。待っていろと言ったじゃ…」
「ううっ」
どうやら、バスタオルでがしがしと拭かれているらしい。ザックスがバスルームから出てくると、その後ろに重なるようにしてもう一つ影がある。
「ザックス」
「へーい」
セフィロスは、腰掛けてたソファーから立ち上がりその背後の影を覗き込む。蒼い透き通った双眸と、視線がぶつかる。まだ、丸みをおびた小さな顔に湿っている金髪の髪が纏わり付いている。ザックスのTシャツが大きいのか、殆どワンピース状態。
「おまえ、こんな小さな女の子にまで…」
「ちっ違う!!」
ザックスは慌てて首を振る。
ザックスの背後から、声は小さいが否定の声が聞こえた。
「よっと」
背後にいる子供の腕を掴んでザックスは、自分の前に押し出す。何処かふてくされたような表情で顔と腕には、幾つかの擦り傷があった。
「今日、俺非番でさー。バイク飛ばしてミッドガルの郊外まで行ってたんだわ」
セフィロスは、キッチンに行きジュースと珈琲を入れていた。
入れた珈琲をザックスに渡す。
「おっ珍しいじゃん」
「ともかく座れ」
三人は、それぞれソファーに座る。少年の方は、ザックスから離れなかったため隣に座る。ジュースを渡された時、驚いたようでぴくりと身体が反応したがおずおずと渡されたコップを受け取る。
「で、こいつ何だか知らないけど追われてたんだわ」
セフィロスはまじまじと子供を見る。
まぁ、ろくでもない奴らに、目でもつけられたのだろう。
この容姿なら考えられる。
「で、そいつらをお前が退治したのか?」
ザックスは肩をすくめて指を子供の方に向ける。
セフィロスは、まじまじと見つめる。
「おい、名前は?」
ザックスは肩を揺らして笑っている。
しばらくお互いにらみ合ったまま。
「こいつ極端に人見知り激しいらしいんだわ。俺もまだ名前聞けてないんだ」
「…クラウド…」
ジュースのコップを持ちながらぼそっと呟いた。もちろん、この二人には聞こえている。
「はい?もう一回」
「クラウド・ストライフ」
ザックスは笑いながらクラウドと名乗った子供の頭を撫で回す。だいぶ乾いてきたのか、その金色の髪がつんつんと立ち上がりだす。
「おっチョコボみたいだな」
ザックスの顎に一発強いのが入る。
「いってーなぁ」
セフィロスがくつくつと肩を揺らして笑っている。
「で、どうして泥だらけになった」
「こいつ、あれだけ暴れたくせにいきなり倒れるし」
その倒れた場所が、泥水だった。何処の誰だか判らないし、とりあえずバイクに括りつけてミッドガルに戻ってきたのだと言う。途中で目を覚まして、バイクに括りつけられたまま喚いていたが名前を聞いても教えてくれず困っていたと言う。
「で、何で俺の家なんだ?ザックス」
「まぁ、近かったというのが…」
セフィロスは、立ち上がり部屋の奥に行くと直ぐに出てきたがその手には、マテリアが握られている。
「おい」
ザックスが、クラウドを抱えあげてセフィロスに投げて渡す。
「うわぁ」
「軽いな」
クラウドの握り拳がセフィロスの顔に向けられる。
ザックスは内心悲鳴あげていた。
(おいおい、あの「英雄」にパンチだとー)
セフィロスは、蚊にでも刺されたかのような反応しかしない。持っていたマテリアは、回復だった。
「少しはじっとしていろ。野良猫」
淡い緑色の光がクラウドを包みこみあっという間に擦り傷が治っていく。魔法を見たのが、初めてなのか慌てて、ザックスにへばりつくクラウド。ザックスは、その癖のある固い自分の頭をがりがりかいた。
「旦那ー腹減ったよ」
「で、その野良猫は何処から来た」
クラウドは、まだセフィロスを睨んでいる。
「…ニブルヘイム」
「へっ、カームじゃないのか?」
クラウドは首を振る。
ニブルヘイムとは、かなり遠い。
こんな子供一人で、ここまで来たのか?
「カームで、変な男に連れ去られた」
二人は顔を見合わせる。
淡々とした子供だった。
「おい、まさか神羅に入りに来たというんじゃ…」
クラウドが頷く。
「年は幾つだ」
「13」
二人は、十歳ぐらいだと思っていたのだ。
余りにも小柄な体。
クラウドは、二人が考えている事を察したらしくぷくっと頬を膨らました。立ち上がり、バスルームに行き汚れたかばんから封筒を差し出した。ザックスが受け取り、その封筒の中身を見る。
「はい?」
「見せてみろ」
二人は固まっていた。
『S候補生だって!?』
二人の視線がクラウドに向かう。
クラウドは、ザックスに連れられ入隊と入学の手続きをしてしまい寮に向かっていた。
「しかし、お前が中等部で候補生だったとわ」
「余計なお世話だ」
寮に付き、寮監から規則の説明を一通り教えられている。
鍵を渡され、部屋に案内される。
「相方と上手くやってくれよ。何かあれば、遠慮なく言いなさい」
「ありがとうございます」
部屋のプレートに自分の名前と、もう一人の名前が書いてある。もう一人は、ロバート・ホーガンという名前だった。控えめにノックして、鍵を差し入れてはいる。その後ろには、ザックスがまだいた。
後ろを振り返るクラウド。
「まだいたのか?」
室内には、ロバートはいなかった。この時間なら訓練か何かだろう。
「なぁ、荷物置いて見て回らないか?案内ぐらいなら出来るぞ」
「ソルジャーって暇なんだな」
これがクラウドの第一感想だった。
「そっかー?」
ザックスの案内で明日から通う学校や訓練施設などを見て回り、お腹がすいたというザックスに付き合いカフェテリアへと入る。
「いいって、俺のおごりだって」
「まっ大変だろうけどさ。がんばれや」
クラウドが頷く。
こいつ慣れてくりゃ年相応と言うか、何と言うか。
学校でこの調子で上手くやれるのか?
一通り回った所で寮に戻るがザックスは、暢気に付いてくる。部屋には、訓練が終わったのか同室になる相手が戻ってきていた。
「よお」
ソルジャーがいきなり顔出したのでびっくりしていた。
ザックスは後ろにいるクラウドを引きずり出し
「こいつ今日からあんたと同じ部屋なんだ。仲良くしてやってくれよ」
「はっはい」
相手はかわいそうなくらい狼狽し固まっている。
「ほれ、挨拶」
「…クラウド・ストライフです」
「俺は、ロバート・ホーガンだ」
よく言えましたと、ザックスはクラウドの髪を撫でまくる。
「こいつ人見知り激しいから、慣れるまで待ってやってくれな」
「はっ、はい」
ザックスは、笑いながら寮を出て行った。ロバートは栗毛色の髪を短く切った身体のしっかりした青年だった。年はクラウドより四つ年上で、高等部の情報処理科を専攻しているといった。部屋の説明をして終わり、面倒見のいい青年のようだ。
「くたびれただろ」
クラウドは、キッチンにある小さなテーブルにつき頷く。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しクラウドに放り投げる。
「ありがとう」
「明日入学式か?」
頷くクラウド。
「ザックスさんと、何処で知り合ったんだ?」
「拾われた」
ロバートが水を噴出す。
「拾われたって…」
クラウドが首を傾げる。
学校の制服をクローゼットにしまっているクラウド。
「おい、それって候補生の制服か?」
「ザックスもそんなこと言ってたな」
何がどう違うんだと首を傾げる。
「普通の中等部の制服はグレー。S候補生は、オリエンタルブルーの制服。あとバッチが違う」
「ふぅん」
ロバートは、冷や汗をかいていた。
こんな子供が候補生?
「セフィロスはこんな事教えてくれなかったぞ」
今何と言いました?
この候補生は。
ロバートは先が怖かった。
入学式も無事済み、クラスを割り当てられた。
クラウドは、Aクラスだった。
「えっと、クラウドだったよな」
話し掛けてきたのは、人のよさそうな少しぽっちゃりした少年だった。
「クリスって言うんだ」
差し出された手をじっと見つめるクラウド。
「…クラウド」
確り手を握り返されクリスは微笑んだ。淡いアプリコット色の髪が印象的だった。様子を伺っていた他のクラスメートがどっと群がる。成績トップで入ってきたのが、自分達よりも二周りも小柄なこの少年とこの少年が持つ雰囲気に推されて声を掛け損なっていたのだ。この現状に驚いていたのは、当の本人だろう。故郷のニブルヘイムでは、クラウドはその髪や瞳が違うと言う事だけでも嫌われ、片親で父親が誰だかわからない私生児として村から相手にされていなかった。当然、小さい時から何をするのも一人である。こんなに声をかけられたのは、始めてだ。
「……えっと…クラウドです」
淡々と、喋る癖や元々人見知りが激しいと言うのがクラス中に知れ渡りなぜか、クラウドのことを細かく世話してくれる者が後を絶たなかった。
執務室のセフィロス。
「クックックッ!」
向かいの席で報告書と格闘していたザックスが手を休め、怪訝そうに眉をしかめて見つめる。セフィロスのこういう笑いの時はたいてい何か、悪戯でも思いついたかのような笑いだ。
「気味悪いよ」
「いやなに、こないだの野良子チョコボ」
「はあ?」
セフィロスが覗くモニターが気になり、ザックスは立ち上がりデスクを回ってモニターを見る。
「げっこれ中等部のデータじゃないか。見つかったらやばいんでは…」
「俺がそんなへますると思うか?]
モニターに出ているのは、クラウドの成績表や教官の評価だ。
「ひゃぁ、首席?凄いな。苦手なものなしって感じじゃん」
「…今、変な事考えてないでしょうね」
セフィロスは、チラッと隣のザックスを見る。
「ああっやっぱり妙な事考えているな!」
「何も言っては、いないが?」
ああ、もうだめだ。
クラウドかわいそうに。
旦那は、遊ぶ気でいるよ。
まぁ、この人間嫌いな旦那が興味を持つって言うのはいい事なんだけどね…
旦那のうちに連れてきた俺のせい?
もしかして…
士官学校の寮に、ザックスが突然来るのが名物になっていた。寮監の方も始めは驚いていたが、まぁ、慣れとは恐ろしいものである。
「まぁ今の所害はないし、あの少年のいい窓口になっているようだし」
人見知りの激しいクラウドは、同じ寮のクリスやリチャードとか喋らなかったし同室のロバートぐらいしか、喋れなかったのだ。
ロバートも面倒見が良く、なかなか喋ってくれないクラウドにいらいらした相手を取り成したり色々と、気を使ったりしてもくれていた。
おかげでクラウドに妙に懐かれ、回りから冷たい視線を浴びる事がしばしばだった。