北流魂街79地区“草鹿”


血と殺戮に満ちたこの地で、1人の少女が育った。
名なんて無い。
ただ生きる為に只管人を騙し、刀を振るい、血に塗れて生きてきた。

それが当たり前の生活だと、思い込んでいた。




□■覚醒■□



「おい!あいつ何処行きやがった!!?」

木の香りと、汗の臭いが交じり合う十一番隊稽古場に、1人の男の怒声が響き渡る。
脇にはズラリと柄の悪い隊士が男とは眼も合わせず、気まずそうに立ち並んでいる。


「あんのヤロー!!!!」
「落ち着きなよ、一角。」
「あいつ実力は有る癖にあのサボり癖どうにかなんねぇのか!!」
「仕方無いよ、あの子は。」



右目に色取り取りの羽を付けたオカッパの男は、坊主の男を宥めながらも窓の外を眺める。
仕方無い。
あの女基(モトイ)、少女は誰も信用しない。
誰もが敵だと、同じ隊である自分達でさえ信じようとしない、まるで荒々しい牙を持つ獣。


そもそも、あの子が十一番隊に来たのはほんの数年前の事。
血だらけの襤褸布(ボロキレ)を纏い、身体は傷だらけで、少女とは思えぬ真っ赤な鋭い瞳で戦闘隊である更木隊隊士を振るえ上がらせた。
彼女の持ち物と言ったら、使い込み過ぎて刃がボロボロの短刀と、布の間から時々見える光るペンダントだけだった。


『こいつが霊術院から卒業したら直ぐに俺らの隊に入隊させる。』
『文句ある奴は居ないよねー?』


更木が少女の両腕を後ろで掴み抵抗させないようにし、更に更木の肩の上でやちるが無邪気に笑う。
少女から発せられる信じられない霊圧と隊長・副隊長の命令に誰も逆らえる訳も無く、無言で顔を頷かせるしかなかった。


今では此方から危害を加えない限りは、安全だが死神になった今でも昔と変わらずに更木・やちる以外の命令は全く聞かない事に、三席の一角は溜め息が耐えない日々が続いた。




.





[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ