Game

□ワルツ
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くるくる。
くるくる。
ただ踊るだけの人形。



それが今の彼女なのかもしれない。


そして、同じように踊る俺はただの道化師なのだと、はっきり分かる。



つるぎとツルギで、一定感覚で交わされる音は音楽だ。
苦しそうに俺らを見つめる仲間達は観客。


…まるでここは舞台ではないか。

一人の独裁者が作った、増大で、けれどちっぽけで、コミカルで、けれど悲しい。そんな舞台。




可哀想に、舞姫は、悪名高き罪人に殺されマシタ。

…そんなシナリオだろうか。
なんて、馬鹿馬鹿しくて憎らしい。
そんな舞台を作った奴が憎らしい。



けれどそれを支えてるのは俺なのだ。

自分の正義だ、これが選んだ道だとのたまっている癖に。
今まさに世界を脅かす『毒』を滅ぼせないではないか。
躊躇して…いや、滅ぼす事など出来なくて、舞って、舞わせてるのは俺だ。

これでは彼の思うつぼ。いや、『毒』を滅ぼす事こそ彼の望むものなのか。





舞姫を。








「ユー…願………殺し…」

舞姫の口から音が漏れた。

あぁ、こいつもこいつだ。


今の彼女は人形の癖に、以前と変わらない。

虚ろな目をした人形から発せられるのは、いつもいつも他人の心配事。
いつも自身は省みない。


意味不明に生きて意味不明に死んでいくこの世界で、舞姫は意味不明に戦って意味不明に死を遂げる。

世界も、周りも、彼女自身さえ。
舞姫の意思が、何もない。

それが酷く、苛ついた。







彼女の持つ、ひと振りの剣がこちらに迫る。
俺は舌打ちをして、それを刃で受け止めた。

キィンという乾いた音と共に刃が離れる。

嫌な音楽だ。止む事を知らない、不協和音。



男の力が強いのは当たり前で、舞姫の刃は大きく弾かれた。

あぁ、胸ががら空き。

…けれど俺は動かない。
罪人は動かない。


「…お願い」

舞姫の呟きが漏れる。
苛立ちが募る。


馬鹿じゃないのか。
こっちの身にもなれよ。
いつもいつも他人ばかりで、自分自身なんてそっちのけで。

自分ばっかり傷付いて。

あんたがそんなんだから、気になって仕方がない。




…………………。
そうか、と悟った。

自分の正義をのたまう罪深い犯罪者は、世界の『毒』に恋をしたのだ。


なんて愚か。
…傑作だ。


しかし光が見えた、気がした。







俺の刃が弾かれた。
俺が動かないでいる内に、舞姫は刃を翻していた、らしい。
剣は俺の手から離れ、遠くで音を鳴らした。


舞姫は俺と違って、動いた。
刃の切っ先をこちらに向けてこちらへ押し出す。



舞姫と目が合った。

俺は、避けなかった。


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