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□ノスタルジア-懐旧-
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太陽が沈みかけて、影が遠く細長くなるこの時間が、エステルは好きだった。
子供たちが駆けていく。きっと家路につくのだろう。そう微笑んだ刹那、流れる香りにエステルは目を細めた。



「なんて顔をしてんだよ」

気付けば、ユーリがこちらを覗きこんでいた。
そういえば、彼と会ったのも半年ぶりだ。

魔導器の無くなったこの世界。私は花の町ハルルで童話作家の仕事をしつつ、王都では副帝としてヨーデルの補佐をする二重の生活をしている。
そんな私の所へ、青年が久しぶりにひょっこりと私の前に現れたのだった。


「顔…?」
エステルは自らの顔に触れる。なにもおかしい所はない。
「そういう意味じゃないっての」
ユーリが苦笑した。
「変な表情してる」

変な表情…していたのだろうか。
それで分かる筈がないのだが、再度エステルは顔に触れる。

その時また香りがした。
美味しそうで…ひどく懐かしい。

子供達がエステル達の横を通り過ぎた。向かう先は香りの向こう。
自然と眉根を寄せる。あぁ、ユーリが言ったのはこの表情だろう。

「そろそろ夕食だな…と思ったんです」
ぽつりと呟けば、ユーリは頷く。
「夕食の匂いか」
「なんだか匂いを嗅いでいたら…悲しくなったみたいです」
そう言ってエステルはユーリに笑った。
なんておかしな事だとエステルは思ったけれど、ユーリはそこで同意してみせた。

「なんとなくは分かるよ」
「ユーリもそういう事があるんです?」
「幼い頃な。夕食時の匂いは『帰る人を待ってくれている』象徴だから、フレンにはそういう人がいて羨ましかったんだろうよ」

そう言って語ったユーリの言葉はまるで憶測の様で、まるで他人を語る様だった。
けれど、そう感じた幼いユーリをエステルは想像する事が出来た。彼は幼い頃に両親を亡くしていたのを思い出す。

(…私も、羨ましいのでしょうか)

エステルも幼い頃に両親を亡くしている。だからその考えに行き着いたのだが…なんだか違う気がした。

また香りがした。やはり懐かしく…悲しい匂い。
エステルは思わず、瞳を閉じた。

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