Game
□ノスタルジア-懐郷-
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「何読んでんの?」
僕の視界の隅から、ひょっこりイリアが顔を出した。
今は自由時間だ。
皆解散して、思い思いの事をする時間。
そんな時間に彼女が声をかけてくれた事に少しだけ喜びながら、僕は返事を返す。
「物語だよ。階層社会のある国で、最下層の身分の青年とその国の姫君が出会って冒険に出る話。」
「へぇー…珍しいの読んでるわね」
そう言ってイリアは僕の隣へと腰を降ろす。
手には紙袋。そういえば今日は彼女が食事当番だったか。
「珍しいかな?」
「珍しいわよ。いっつも医学書だか参考書だかワケわかんないもの見てるじゃない」
「ワケわかんないものって…」
イリアの言葉に苦笑いした。
本は昔から好きだった。
そこには日常ではあり得ないものに溢れていたから、憧れていたのだと思う。
でも現在、天上の誉れ高き武将アスラの生まれ変わりなんて肩書きが着いてきて。戦場へ行ったり前世の友に会ったり世界中を旅して…まるで自分自身が物語の主人公の様な出来事に、物語への興味は薄れていた。
けれど本は好きだから。こうして気になったものがあれば買うし、読む。
…そう異論を唱えようとして、彼女に睨まれすぐ黙る。
本当、僕はどうしてこう意気地無しなんだか…
「で、面白いの?」
さも興味もなさそうに言うイリア。
たとえこの後に僕がどんな絶賛の言葉を本に贈ろうとも、彼女にとっては『本はつまらないもの』という認識からは外れないだろう。
(なら何で聞くんだろう…)
そうは思いつつもキチンと答える。
「面白いよ。特に捕まってしまった姫君を主人公が助ける所とか」
「ふぅーん」
その時イリアが意地悪そうに笑った。
(あ…これは…)
嫌な予感が駆け巡る。そして勿論それは的中した。
「憧れてる訳?ヒロインを助ける正義のヒーローみたいなの」
その言葉に僕は咳き込んだ。
正直に言えば、憧れては…いる。この物語の主人公が姫君を助ける様に、僕だって…と思う。
例えば、目の前で嫌な笑みを浮かべる少女を助けるヒーローになりたいとも。
…だからといって、そんな子供じみた『ヒーロー』なんて言葉にうんと頷ける程、僕は子供ではない訳で。
更に深みを増したイリアの嫌な笑顔。すぐさま否定の言葉を紡ごうとしたその時。
匂いがした。
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