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□月に叢雲、花に風
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月明かりに照らされて
彼女は歌う
歌詞はあたたかく、そしてほんの少し寂しい
それに合わせて花びらが舞う
(現実味…無ぇな)
歌姫はさながら花の精か、それとも月の姫か
まるでこの世のものとは思えない光景に思わず息が漏れる
瞬間、こちらの気配に気付いたか歌姫がこちらを向く
目を見開き頬を紅く染める彼女は、さっきとはうって変わりあどけなさの残る表情をしており、つい口許が緩んだ
「ぇ…ユーリ!?いつからいたんです!!?」
「歌上手いな、エステル」
笑みを湛えてそう言うと、さらに真っ赤になった彼女はお決まりになった台詞を言う
「ユーリ意地悪です。…声をかけてくれれば良いのに」
「声かけたら、エステルの歌聞けなかっただろ」
「本当に意地悪です」
その言葉に笑って…そして少しばかり安心する
本当は彼女の姿に見とれて、声をかけるのを忘れてしまった
そう言えば、彼女はどんな顔をするのだろう
「まるで月の姫みたいだったぜ」
「月の姫?…かぐや姫です?」
「かぐや姫?」
意外な返答に首を傾けると、彼女はまるで唱える様に話し出す
子供のいない老夫婦が、竹の中から子供を授かる事
子供は大変美しい女性となり、沢山の人々から求婚を受けて、ついには皇帝までもが彼女に恋してしまう事
そんな折りに、彼女は自らの変えるべき場所…月へと去ってしまう事
女性が好みそうなたいそう甘い話。自然と苦虫を噛み潰したような顔をする自分に、しかし対する彼女はうっとりとした顔をする
「良いお話ですよね」
「んー…」
曖昧に返事をして空を見上げれば、かぐや姫が帰ったという満月が大樹の枝の隙間から顔をのぞかせていた
「じゃあ、エステルはいつか月に帰っちまうのかな」
ほんの冗談…いや比喩だったか
旅が終わり、いずれ城へと帰る彼女を連想して
独り言の様に呟いた言葉に、しかし彼女は本気と受け取ったのか少し首を傾けてこう返した
「月になんて行きません
ずっとここにいますよ」
「ずっと?」
「はい。ずっと」
「…ははっ」
彼女の言葉がおかしくて、声を出して笑ってしまう
そんな自分の態度に彼女は困った顔をして、それがさらにおかしくて
「ゆっ…ユーリ!私おかしい事言いました!?」
「く…いや」
「ユーリ!」
「ははっ、悪ぃ」
次第に目尻に涙を貯めていく彼女を見て、ようやく笑いを止めた俺は、その薄紅色の頭をがしがしと撫でてやる
「うぅ…」
「悪かった」
「知りません!」
「悪かったって」
少し上目遣いで見てくる彼女に愛しさを覚える
“ずっとここにいる”
本当に、そうならば
…分かっている。そんな事はありえない
不意に浮かぶ甘い考えを直ぐ様否定した
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