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□ノスタルジア-懐郷-
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それは優しい匂いだった。懐かしさを感じさせる匂い。
僕は思わず、母さんの作ったチーズスープを思い出した。

「あぁ、もう夕飯の時間か」
イリアが呟いた。イリアが見つめる先は、名前も知らない誰かの家。子供が家へと駆けていく。
ただいま。そう言って扉を開く子供の向こうから、また匂いがした。

「帰ろルカ。あたしお腹すいちゃったわ」

普段のイリアと違う声色に、僕は彼女を見る。
何か言おうとして、躊躇って、結局僕は「うん」とだけ答えた。





彼女は何を思ったのだろう。
いや、多分僕と同じ考え。

…出来るなら早く故郷へ…家に、帰りたい。

懐かしい香りに僕は母さんのチーズスープを思い出し、イリアもまた家族を思い出したのだろう。

(この旅が、望んだものだったなら良かったのに)

けれどこの旅は逃亡の旅であり、決して望んだ旅ではないのだ。




イリアは先立って歩く。彼女の後ろ姿が妙に寂しく感じた。

(慰めたい)

けれどどうすれば良いのだろう。僕には方法が何一つ浮かばない。


『ヒーロー』ならば分かるのだろうか。そう、例えばアスラの様な。
けれど僕はすぐ項垂れた。自身がアスラと同じように立ち振る舞える自信が無いからだ。


…せめて、彼女の寂しさを紛らわせる位には強くなりたい。なれるだろうか?


「遅いわよおたんこルカ!」

そこで、僕はようやくイリアとの距離が離れている事に気付いた。
慌ててイリアの横に並ぶ。


見ると、彼女は元の彼女だった。
いつも通りの彼女にホッとして、そして少しばかり胸が傷んだ。

せめて今自分が出来る事を考えて、ようやく浮かんだのは手を繋ぐ事ぐらい。
「ばーか」
手を握ったら、小さくそう返された。
けれどイリアは握り返して来たから、僕らは手を繋いで帰った。








太陽が大地に帰る時間に。僕と彼女は帰路への道を探す。

本当の『帰路』に着くまでには、慰めの言葉も、彼女を守る力も、全て手に入れられる様になりたいと…そう思いながら。


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2010/12/12著
6月位にブログで10000Hitを果たしまして、記念小説(TOV同タイトル)を書いていました。
その時に『同テーマでルカイリを書いたらどうなるか』と思い立って書き始めたのがこれです。書き上がるの遅すぎる!

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