shousetuokiba

□主人公は影武者勇者
2ページ/10ページ

0幕/
 ̄ ̄


「僕の影武者になってもらえないか?」


 風が吹ききった丘の上で――あの野郎は呟いた。

 その目は頼みごとをする目線ではなく、殺そうとしていた獲物に対しての哀れみの目。

 最高の慈悲を与えてやる。生き残るためにはそうするしかない。そう、言われているように感じる。

 強い力をもって、オレを縛る。

「君は強い。それに、外見も僕に似ている。ここで君を殺すのは惜しい。是非、僕の影武者に」

「なぜ……影武者が必要なんだ?」
 ふと疑問を感じて、オレは静かに問う。

「てめぇくらいの強さなら、影武者なんて――不必要なんじゃねぇのか?」

 こいつは強かった。オレが一番知っている。戦ったオレが、一番よく知っている。

「なあ……どうなんだ?」

「それはね――」

 オレの問いにかすかな笑みを浮かべて、勇者は影武者に答えた。

「僕は……もう長くないからだよ」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ