shousetuokiba

□こそどろサンタのノンスノーリー・クリスマス
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 クリスマス。
 普通なら白い雪でも降って来て、世の中のカップル達の温かい雰囲気を盛り上げるのが常のこの日、しかし願い虚しく全国的に雪は降らなかった。
 ホワイトクリスマスの恩恵を期待していた業者は落胆し、聖夜に輝きを町へと放つツリーには白い帯が描かれることもなく。

 あっさりと、今年のクリスマスは終了した。

 ノンスノーリークリスマス。誰のせいでもなく、雪がたまたまその日に降らなかっただけだろう。
 世の中のほとんど全ての人は、この事実に対してそう思った。私も最初、本当はサンタなんてやって来ないって事と同じくらい当たり前に、なんの疑問も抱くことなく大衆の意見に同調していた。
 ――けれど。
 数日ずれて辺りを一面に染めた雪に、カップル達が溜め息を漏らす12月27日の朝。
 手袋とマフラーをすり抜けてくる寒さに耐えながら探偵事務所に着いた私を待ち受けていたのは、助手君の口から放たれた、奇想天外な言葉だった。

「知ってました? クリスマスに雪が降らなかった訳を。雪はあの日、盗まれたんですよ。季節通りにやってきた、やけにお茶目なサンタによってね」

 冬だというのに半袖のTシャツを着た助手君は、相変わらず片耳にイヤホンを付けたままにっこりと笑うと、開口一番にこう告げたのだ。
 その奥では白髪を後ろで束ねた探偵さんが、氷で出来たビー玉みたいな目で私を見つめながら口元を緩ませている。
 あれ、やっぱりこの事務所、失敗だったんだろうか。

「え、一体どういうことっすか?」
「どういうこと、ってのはこっちのセリフですよ、たすきさん。僕達は“怪我するようなことはありません”って言われて依頼を受けたのに、ホラ」

 入り口で呆然と言葉を返した私にコミカルチックな変顔を見せ付けながら、助手君はおもむろに屈むと、布地の長ズボンを膝まで上げた。
 上げたのは右足。
 そこには、痛々しい包帯が幾重にも巻かれていた。

「重度の裂傷。全治2週間です。まさか僕が年越しを五体不満足で向かえることになろうとは、僕も雪生さんも想像してませんでした」
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