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□ゆめをみる貝殻。
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磨けよ磨け
作・坂月和闇
歯ブラシ、それは伝説の剣。歯を磨くその姿はまさに太陽神に匹敵する神々しさを、後光を放っている――とは、かの有名な副顧問KINGの話した逸話だ。
彼の精神が常人のものと一線を画していたことは、この言葉を聞けばすぐに分かることだろう。
しかし。
世間とは、いや人間とは、位の高い人物の言葉を信じてしまう欠点があるのだ。
そして今日この町では、歯ブラシを武器とする歯ブラシ大会が開催される。
「ん、行ってくるよスクル兄さん。僕……勝ってくる」
円形に建てられ、中央にステージを抱える闘技場。今日はこの場所が、世界で最も騒がしくなる日。
そう、歯ブラシ大会だ。
世界から選ばれた精鋭の“歯ブラシ使い”8人が結集し、歯ブラシバトルを繰り広げる。
一人の少年がステージに上がる。さっき、控え室で兄に決意を伝えたばかりの、黒髪の少年。
褐色の肌をした彼は、白い、純白としかいいようがない歯を観客に見せる。歯ブラシバトルでは、歯の白さも大切なアドバンテージなのだ。
彼の右手には、繊毛を綺麗かつ完璧に並べた歯ブラシ、“イドルエクスプル・ブレイド”が光っていた。
そうこうしている内に、反対側から対戦者が出てきた。
「見慣れねぇチビだな、おいおい」
2mを越えるかという巨漢。手に持つ歯ブラシはその実90センチの丈をもつ“ゴールドザルグ2451”。一瞬にして汚れを消し飛ばすと言われる伝説の剣、いや歯ブラシだ。
審判が現れて、2人の距離を一定にする。
そして、2人とも歯磨き粉を歯ブラシにつけ――
歯にちょっとじゃ取れない大会用のクロスミルクをまんべんなく、塗っていく。
勝負の方法は至ってシンプル。どちらが早く、相手の歯の汚れを落としきるか。
「では、いざ尋常に」
第一回戦が……
「始め!」
始まった。