短編

□いじめられっ子
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『ごっ、ごめんなさい!』


「………チッ」




先程のあいつの姿を思い浮かべ、思わず盛大に舌打ちする。

同時に合流した美咲と眼鏡が弾けるようにこっちを向いたが、今はそんなのどーでもいい。


(ああ、苛々する)




「おい翼ー、なーに苛ついてんだよっ」

「……別に苛ついてねェよ」

「はい、嘘ー」

「…。」




あえてなのか素なのか(十中八九あえてだろうけど)、明るい口調で絡んでくる眼鏡にイラッとして、取り敢えず蹴っておいた。

いてっ、とか聞こえたけど無視。




「あー…悪かったよ。まさか翼があんな廊下でなまえと話してるとは思わなくてさ」




なまえってちっさいから、丁度翼に被って見えなくて…なんて言いながらバツ悪そうに謝ってくる美咲。

確かにあいつちっせぇよな。それに細ェし。

(なんか、抱き締めたら折れそう)




「翼ぁ、美咲も悪気あった訳じゃねーんだしさ。許してやれって。な?」




俺が黙ってるからか(まあ多分絶対そうなんだけど)勘違いしたらしい眼鏡がすかさずフォローを入れてくる。




「それになんだかんだ話せたんだろ?凄ェじゃん進歩進歩!あんま長過ぎても間ァ持たなかっただろうし、」

「別にそれについては怒ってねェよ」

「は、そうなん?」

「なら何でそんな苛ついてんだよ。話せたんだろ?」

「…………泣かせた」

「「は?」」

「だから!泣かせた、って」




多分、泣いてたと思う。

(いや泣いてた)

話してる時から涙目ではあったけど、最後に振り返った時、小さい体を更に縮こめて、目を擦るような仕草を取っていたから。

その姿を思い返して、ずきりと、心臓が締め付けられるように痛む。




「ま、た、かよ!」

「お前何やってんだよ。そんなんじゃほんとに望みなんてなくなるぞ!?」

「…。」




(もうねェよ)

ある訳がない、望みなんて。話しかけるだけであれなんだ。好きだとか言ったら、どんな顔するだろうな。


(むしろ逃げられるかもしれない)




「もういい加減素直になれよお前も。いつまで小学生男児の恋愛感引き摺ってんだよ」

「さっさと告れ!もうめんどくさい」

「無理」

「何でだよ。言えばいいだろ、なまえが転入して来た日に一目惚れしましたーって」

「俺のこと見て欲しくていじめてましたーっつってな(笑)」

「いや、それはもっと無理。笑ってんじゃねェ殺すぞ眼鏡。つうかいじめてねェ」

「いや、あれは完全にいじめだろむしろいじめだね」

「、」

「授業中でも自分以外見て欲しくないってどこのヤンデレ?つうかそのアピール方法も教科書に落書きって。迷惑にも程がある」

「ゔ」

「食べ物で釣ろうとして自分の好きなものやるのはいいけどクラス全員分とか。確実にいらねェし」

「しかも残念なことにそれがなまえちゃんの大っ嫌いで唯一食べれないものとかな」

「もう笑うしかねェよな」

「、るせぇ!知らなかったんだからしょうがねェだろ!」

「いや、それは調べろよ。つうかなまえちゃんの反応でわかれ」

「っ…!!」

「あっ、後アレ!名前で呼べよ事件!」

「あーはいはいアレね!なんであそこで安藤くんなんて呼んでんじゃねェよって言っちゃったかなぁーしかもせっかく向こうから話しかけてくれたタイミングで」

「そこは翼って呼べよでいーだろ。そしたらなまえとの関係もまだマシになってたかも知れねェのに」

「アレ以来なまえちゃん名前呼びどころか翼の名前さえ出さなくなったもんな」

「うっるせェな!!ちらちらこっち見んなわかってんだよ言われなくても!つうか眼鏡!お前さっきからなまえちゃんとか気安く呼んでんじゃねェよ!!」

「なんだよ事実だろー?後お前、その尋常じゃねェ独占欲やめろよ。彼氏でもねェ奴に縛られるとかドン引きだから」

「っ、」

「まぁ、まだマシになった方だろ。昔は女子と話すのもダメだったし」

「あーあれね。周りから見たら可愛らしい嫉妬でも、みょーじさんからしたら転入早々クラスから孤立させられる可哀想過ぎるいじめね」

「いじめてねェ!」

「いやあれをいじめと言わずして何て言えと」

「翼知ってるか?いじめは被害者が嫌と思った時点でいじめなんだぜ?」

「っ、……あ゙ーっ、もういいうるせェうるせェ!そうだよ、いじめてたよおかげでなまえには思いっきり嫌われて避けられてるよこれで満足かコノヤロー!」

「うわ、キレた」

「うわ、拗ねた」

「「開き直った」」

「うるせェハモるなむかつく!もういい!」




くるりと踵を返して、二人に背を向け歩き出す。




「あっ、おい翼どこ行くんだよ」

「北の森」

「授業始まんぞー?」

「フケる!」

「おー、わかったぁー!」

「昼までには戻って来いよー!」

「…。」




ひらひらと後ろ手を振って了承を示しながら、言いたい放題だった二人の言葉を思い出す。




『完全にいじめ』

『いやあれをいじめと言わずして何て言えと』

『翼知ってるか?いじめは被害者が嫌と思った時点でいじめなんだぜ?』





いじめてる気は、なかった。本当だ。

ただこんなに好きなのに、俺には泣きそうな顔しか見せなくて、他の奴らに笑顔を見せるあいつにむかついて。無条件であいつの笑顔が見れる周りの連中にもむかついて。


がむしゃらにやって来た結果が、




『ごっ、ごめんなさい!』




これだ。




「……ごめんなさい、か」




望みなんて、ねェよなあ。

(あーあ)




「うまく、いかねェなぁ…」








零れた先に何がある

(君の涙を見るたび、泣きたくなるのは俺の方だ)






(好き、なんだ)

お前のことが。お前に嫌われても嫌われても、俺は飽くことなく君を想う。

頼むよ、どうか叶うなら、



(おれをみて)




130326
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両片思いっておいしいよね^p^



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