Gift 執筆
□あなたを探して
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見つけた。私の思い人…
牧先輩…
私のこと覚えてくれていますか?
〜あなたを探して〜
この春、私は海南大附属高等学校へ入学した。
ある人に会うため…
それは中学生の頃。
初めて牧先輩を見たときに、一瞬にして彼の虜になってしまったんだ。
それからの牧先輩が卒業してしまう1年間は自信がなくて何もできなかった。
月日が経っていくうちに、牧先輩のことは忘れていくんだろうと思っていたけど、そんなことはなかった。逆に会えない分、思いは募っていくばかり…
そして決めた。
海南大附を受験しようと、気持ちを伝えようと──…
今、私は海南大附の土を踏んでいる。
やっと会える…
足取り軽く向かうのは、バスケ部が練習している体育館。
いた!!
ずっとずっと、思っていた人がそこに…
嬉しくて目頭が熱くなり、瞳が潤んできた。
やっとここまでこれた。
けれど次の瞬間、一気に不安に襲われた。
牧先輩の周りにはたくさんの人集り…
上級生の先輩達。
下級生の私が果たして近づけるのだろうか…?
私のこと覚えてくれていますか?
牧先輩を見つめ、名前を心の中で何回も唱える。
一度でもいいから見てほしい。
結局、一度も振り向いてもらえず、部活が終わってしまった。
ぞろぞろと帰っていく観衆とバスケ部員。
私はその場から動く気になれずにしばらく立ち止まっていた。
誰もいなくなって静かな体育館。帰ろうと思い、体育館を見回すと、舞台脇にピアノがあるのが目に留まった。
(一曲弾いていこう。)
思ったまま、ピアノに向かって行った。
実は牧先輩に一つでも私のことを覚えてほしいと思い、幼稚園から続けてきたピアノを中学の文化祭や祝賀会などで披露したのだ。
何か一つでもアピールできるように続けているピアノ。
椅子に腰掛け、蓋を開け、鍵盤をたたいてみる。
ポーン────……
体育館内に響き渡るピアノの音。
余韻を残して消えていく前に、両手の指を鍵盤に軽く置き、優しいメロディーを奏で始める。
曲の中盤くらいまで弾いたとき、扉の開く音が聞こえ、演奏を中断した。
「誰だ?」
体育館に響く低い声に体が強ばった。
現れた人物は私がずっと思いを寄せていた牧先輩…
どうしよう!!
いざ本人を目の前にすると、何も言いだせない。
「す、すいません。
今すぐ出ていきます。」
わたわたと慌てて手が震える。
「いや。ピアノの音が気になったんで来てみただけだ。
気にせず、弾いてくれ。」
「はぃ。」
牧先輩が近くにいる…
ドキドキしている胸を押さえ、ゆっくりと深呼吸をして、鍵盤に手を置く。
息を整えて、曲を弾き始める。
こんなに嬉しくて緊張するコンサートは初めて。
弾き終わり、息を整えていると、牧先輩からの拍手。
「上手いな。」
「ありがとうございます。」
「この曲、何処かで聞いたことあるんだが…」
思い出そうと頭を抱え込んでいる。
「あの…中学のときの文化祭で弾いてました。」
「まさかとは思ったが、あのときの子か。」
頭を抱え込んでいた手を下ろし、真剣な眼差しで私を見てきた。
その仕草にドキッとする。
「気になってたんだ。ずっとな…
ピアノを弾いている姿を見て、惹かれてた。
けれど、高校に入学してしまって、もう会えないと思っていたんだが。
こんなとこで会えるなんてな…夢みたいだ。」
「私も後悔してました。
中学の時に何で思いを伝えなかったのか…
思いを伝えるために、海南大附に来たんです。」
「そうか…
てことは両思いってことでいいんだな?」
「…はぃ。」
それだけ言うと、牧先輩はふっと笑って頬に手を伸ばしてきた。
反射的に目をつぶる。
牧先輩の顔が近づいてくるのが分かる。
優しく口付けが落とされ、目を開ければ優しい笑顔。
あぁ、私すごく幸せだ…諦めなくてよかった。
2人の新しい未来がこれから始まっていく──…
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