スター・イン・クラウド
□始まりを告げる鐘の音 U
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この時間がずっと続くかに思えたその時。
ふいにリルが白夜から離れた
「すまぬ。先のごたごたで大切な事を忘れておった」
そう言ってリルは、白夜の右目に手を近づける
思わずぎゅっ、と目を閉じてしまった。
すると、リルは今の市販の白い眼帯を取り、新しい眼帯をつけた。
世間では珍しいタイプで、まるで海賊がつけるような眼帯と形が似ているようだ
そっと目を開いてみると、なんだかさっきまでとは少し違うようだった
何が違うと聞かれれば応えられないが、どことなくスッキリとした気分だ
「これからは、この眼帯をつけておるとよい。」
優しい眼差しで白夜に微笑みかけながらリルが言う。
その表情がとてもきれいで、思わずドキッとしてしまった。
ああ、本当にこの時間がずっと続くようだ。
そう思った時、ふいに視界が揺らめき、それに耐えきれず白夜はドサリ、とリルにもたれかかるように倒れてしまった
*
目を開くと、そこは病院の真っ白な天井だった。
ああ、夢か。
ふいにそう思った。
だって、自分はここにいるのだから。
そう思って起き上がって見ると、自分の右目に眼帯がつけられているのに気がつく。
触れてみるとそれは市販の眼帯とはあきらかに違っていた。
しかもメガネまでかけてある。
どうやら、ただここに運び込まれただけのようだ。
これから色々と面倒なことに巻き込まれそうだな…
そう思うが、リルの顔を思い浮かべると不思議とそれも悪くないような気がして、くすり、と笑う。
が、それも束の間。
先ほどから視界の端にちらついているものを思い出し、『それ』から思い切り目を背ける。
『それ』は、白夜の知識では見慣れないもの。
そう、小説や漫画でしか見たことがないものだった。
最も、最近の小説や漫画でもめったにお目にかからないものなのだが。
とにもかくにも『それ』は、まるでそこにあるのが当然のようにそこにある。
そう、三日月の丸くなっている部分に赤い大きな丸い石がはまっている、白夜の背丈ほどもある大きな杖は、とても自然に、何かの服と一緒にそこにあった。
いい加減現実からは逃れられないと思い、まじまじとその杖を見る。
杖はまるで月と太陽を象徴しているかのようだった。
そして、それゆえに使いやすそうな…でも扱いが難しそうな…そんな気がした。
「って待て俺。何この杖に馴染んでるんだ?それに現実をみるって……普通真っ先に夢とか思いそうなんだが……」
あまりにも自然に杖を受け入れてしまっている自分に、白夜はぶつぶつと独り言を唱える。
超絶怪しいが、今の白夜は怪しくなってしまうほどいっぱいいっぱいなのだ
いや、別に昨夜の非現実的なことで思い悩んでいるのではなく、むしろそれをあっさりと受け入れている冷静な自分に思い悩んでいるのだ。
「いくらなんでもこれはありえねえよなあ……」
ため息混じりにそう言う。
こんなことで思い悩んでも、何故か受け入れてしまっているのだから仕方がない。
むしろ受け入れていると無駄に混乱しないからいいではないか。
ポジティブにそう考えることにした。
「りゅーう!さっきから何1人でぶつぶついってるの?」
その言葉を聞いた瞬間、前の方に倒れそうになる。
と言うのも、突然後ろに誰かの体重がかかったからだ。
その誰かは誰かわかる。
由紀以外に考えられない
「おわっなんでもねえよ……それより、俺一応病人なんだけど……」
呆れ気味に後ろの由紀に言い、体制を立てなおそうと力を入れる。
しかし由紀はその言葉を聞く気がないらしく、むしろさらに強く抱きついてきた
「だからこうして学校休んで看病してあげてるんでしょー?」
「……今日は日曜なんだが…」
「ばれたか」
白夜の指摘にぺろっと舌を出してちょっとしたイタズラへの反省を冗談交じりに示す。
冗談が混じっているので全く仕方ない。などと思いつつも、こんなに微笑ましい日常に思わず笑みが出てしまう。
しかしその時、リルの顔が思い浮かび、その表情が曇った。
どちらかを選ばなければならない。
なら、選ぶために由紀には話しておかなくては……
そう思い、白夜は口を開いた
「あのさ、由紀……」
「何?改まって……」
その由紀の無邪気な表情に、思わず口ごもってしまう。
言わなければならない。頭では分かっていてもどうしても実行に移すことをためらってしまう。
由紀を1人には出来ない。
それは理解している。
でもリルを放っておけないのも事実だった。
そんな色々な事を考えて、口ごもっているうちに、由紀の興味が他へ移ってしまった
「なあに?これ」