スター・イン・クラウド

□帰る場所だったはずの家
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白夜と由紀が別れたその頃、白夜が入院していた病院では、医者が頭を悩ませていた

あの症状で回復したのは白夜が初めて。

貴重な症例だが、データが少なすぎる。

データを集めようにも白夜は今朝、まるで嵐のように退院して行ってしまい、それきり居場所が分からず連絡の取りようがない

今こうしている間にも新たな死者が出ているやも知れぬ。

そして、今もこの症状の人は世界で増え続け、今は数千人に及ぶ

原因は全く分からず、調べても調べても体にも脳にも、精神にもどこにも異常は見当たらない

調べられることは調べつくした。

無くなった人の解剖だってした。

それでも全くと言っていいほど何も分からず、まるで生命力だけが何者かに徐々に奪われているようだ

しかしそうだとしてもその方法などおおよそのことが分からない

「どうすれば……どうすればいいんだ……!」

自分の机の前に座りながら、頭を抱えてうなされるように呟く

いっそ悪い夢だと思いたかった

しかし、そう思ってしまっても患者は弱る。

このまま何もしなければ、いずれ患者は徐々に…しかし確実に息絶えていくだろう。

その時突然、ふ……と1人の少女が現れる。

しかし医者は少女がいきなり現れたなどとは知らず、後ろを振り向き驚きの表情を見せる

部外者は入って来てはいけない。そう注意しようと口を開きかけた時だった

「せかいでふかかいなしょうじょうのひとがふえているようですね」

とてもか細く、とても小さく、それでもしっかりとした、そしてとてもきれいな声で少女は言う。

少女がこの症状を知っていることに医者は驚愕する。

これは、あまりにもイレギュラー過ぎるため公表されていない。

もし世間に洩れそうになったら政府が全力で阻止していた。

そのため、このことを知っているのは一部の政治家と医者だけだった

なのに、医者にも政治家にも見えぬこの少女はどうして知っている?

簡単だ。どこかから情報が漏れたか、ただの出まかせだ。

「たしか…じょじょによわるんでしたね」

少女のこの言葉に医者は後者の考えをもみ消した。

これは確実に知っている。

知った上で、ここにきて話している

何処から洩れたのか……すぐにその情報源を経たねば。

そう思い、医者はどこからそれを知ったのか問いただそうとする。

しかしそれは少女の次の一言によって考えが変わることとなった

「くわしくおしえてください。わたしならなにかできるとおもいます」

今は藁にでもすがりたい気分だったのだ。

そんな時にこんなことを言われては、ついすがってしまうのが人間と言うものだ。

そして実際、医者はそうしてしまった。

何から何まで少女に話す。

時にしんみりと、時に声を荒げ、なにもかも隠すことなす洗いざらい話してしまう。

少女はその話を黙った最後まで聞いた。

そして最後まで聞いて、「ありがとうございます。さんこうにします」そう言い残し、少女はこの場を去った

医者にあの症状が現れ始めたのは、それから1週間後のことだった
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