スター・イン・クラウド

□漆黒のドラゴン
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風が、吹いていた。

そしてベランダなのか、踊り場なのか、屋上なのか見分けのつかない場所。

その手すりに、1人の男がもたれ掛り、この世界を見ていた。

この世界は、バンドズととてもよく似ていた。

ただ、決して『白夜』達の知るバンドズとは似てはいなかった。

地は荒れ、植物はほとんど生えていない。

かつてはその中にたくさんの水を蓄えていたであろうくぼみは今は頼りない、少しの水があるのみ。

そして中央の大きな建物も老朽化しているイメージが強かった。

そして男はと言うと、男にしてはその筋肉は頼りなく、そして表情もどこか儚げだ。

頭や腕や足など、体のあちこちに適当に包帯が巻かれている。

それらから、まるで男はこの世にはいない、幽霊のようだと思わせる

しかしそれは、隣の、黒髪のツンツンとした短髪に、金色の瞳の男により否定される。

「……もうすぐ、なんだな」

それを言うその男はとても、とても悲しそうな瞳で隣の男を見ていた。

しかしそれとは対照的に、その男は穏やかな笑みを浮かべた

「ああ」

短く答えたそれは、どこか嬉しそうで……とても悲しい。

黒髪の男はそれに耐えられなかったらしく、男から目を背ける

「もうすぐだ。もうすぐ、俺の役目は終わる」

男は黒髪の事など意に介さず、言葉を続けた

それは、どこか遠くを見つめているようだった。

今、この男が何を考えているのか、それは黒髪にも分からない。

ただ穏やかにそう言う男が凄く痛々しかった。

「なあ」と、男は黒髪に話しかける。

先ほどとは違い、俯いていた

「未来は……誰に託されたんだろうな」

ずっと考えて来た事。

未来は、自分に託された。

でもその自分は――

男の問いかけに答える者は、誰も居ない。

「……そんなことを考えても、あと少しで俺の体は壊れる。答えは、見つけられないままでいい」

その言葉が悲しくて、黒髪はそんなことはない!そう叫びそうになった。

けれど、否定することが出来なくて、否定できる事実が見つからなかった

男の体はもうすぐ壊れる。

これはずっと昔から決まっていた事だった

それは『皆』分かっていた。

それでも、いざその時が来ると受け入れることが出来ない

「ただ、俺の体ががあの日まで持つかどうか……それだけが、問題だ」

男にはもうそれしかなかった。

『彼女』を失い、『彼ら』を失った今、男がここに居続ける理由は、ずっと昔から来ると決まっていた『あの日』以外、何もない。

そんな男に生きる希望を与えてやれなかった。

支えることさえ出来なかった。

そのことが、黒髪は悲しかった


×


誰かが俺を起こしてる……

でも、まだ眠いんだよ

だってしょうがないだろ?冬の布団は妙に気持ちがいいんだからさ……

ああ、分かった。分かったよ

起きるからさ、だからそんなに急かすなって―由紀。

そう思いながら目を開けると、目の前に居たのは由紀ではなく、リルだった

未だに由紀の所に居る。そんな錯覚は消えないままだった

「ようやく起きたか、白夜」

リルは白夜を起こしたことで何故かどこか得意げになっていた。

昔から白夜の寝起きは悪かったのだろう

しかし、リルをよく見てみると髪はまだ結われておらず、ストレートだった。

「では、下で待っておるぞ」

そう言い残し、リルはくるりと振り返り、ドアの方へ行ってしまう。

その時に、ふわりといい匂いがし、さらに朝日に照らされリルの髪がキラキラと輝いていた。

綺麗だ。そう思った。

そんなことを考えていると、ハッと我に返り、慌ててメガネをかけ、服を着替える。

アースイームスに来てから1カ月。

少しずつ魔法の腕も上がり、ある程度のクエストは出来るようになっていた。

そして色々な人と出会った。

正確には再開した、と言うべきなのだろうが白夜にはその記憶がないので出会ったと表現するしかなかった

そして、かつての記憶を取り戻す手掛かりはたくさんあった。

しかし全くと言っていいほど記憶は戻らず、最近は自分は白夜ではないのかとさえ思い出していた。

そしてこれはリルから聞いたのだが、白夜が自分とギルドの皆のマークについて尋ねた。

ギルドのマークであろうことは分かったのだが、何故か皆何かの種で、そして自分だけキズナソウの7色の花のマークだった。

効いてみたところ、種はキズナソウの種だそうだ。

そして、こう言っていた

「種は7色全てになる可能性がある。じゃから何にでもなれる、と言う意味で皆には種。
 幹部には蕾、そしてマスターであるお主は皆をまとめると言う意味で7色のキズナソウの花なのじゃ」

しかしリルの言葉によると、意味は他にもあるらしい。

けれどそれは白夜が聞いても、それは自分で見つけなければならないとかで教えてはくれなかった。

と、着替えが終わったので杖を手に持ち、下へと降りる。

そこで食堂を担当する人に朝食を適当に頼み、それを持って席に着く。

すると偶然なことにリルとイリンが居た。

他にも男の子と白夜と同じくらいであろう男性が居た。

「ちょうどよかった。白夜。今日はこのメンバーでこのクエストに挑戦してもらう」

そう言ってイリンから紙を2枚渡される。

1枚目は参加メンバー表。

白夜、リル、イリン、ミンタラ、スティア、シアン、オウ・マスカ、ユウ・マスカ、春雨と異様に多い。

しかも他にもまだ参加する人がいるではないか。

その中には何人か見知った人の名前もあった。

「やけに多いな……」

率直な感想を口にしながら2枚目を見ると、なるほど。理由がよく分かった。

ランク。問題はそれにあった。

内容は……おそらく問題だろう。

何せ内容によりランクが決定されるのだから。

いやしかしもしかすると見間違いではないかそう思いもう一度ランクを見てみる。

しかし変わらない。

そして叫んだ。

ランクを。



「Zランククエストォォォォォォォォ!!!!!??????????」



あの自殺行為のランクの!?俺絶対死ぬ!

だから大勢なのか!?

いや待てだったら俺は外すべきだろうっ!

そんな風に混乱する白夜をよそに、リルが冷静に話しだす

「うむ。内容は複数出現し、暴れ出したドラゴンを沈めること。普段ドラゴンは温和なのじゃが、何故か暴れている。なのでその理由を突き詰めること。
 お主に参加して貰う理由は、お主にしか倒せん、また、お主が倒した筈の魔王が絡んで居る可能性があるからじゃ」

さも当然のことのように白夜がZランククエストに参加する理由を、もっともらしい説明で話した

「…………マジか」

その言葉は、食堂の人々の賑やかな声によりかき消された
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