黎明の魔術師
□東の京中心部 国立魔術学研究所
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静寂を破る禍の音
「――明」
ああ、懐かしい声がする。最後に彼の声を聞いたのは、一体何年前だろうか。
もう夢の中でしか逢えない彼。誰より……、大切な人だったのに。もう逢えない。この世でも、あの世でも。
死を失ったこの身体。永久に独りきりの私。例え何度彼が生まれ変わっても、私は私のままで。再開を約束した桜の木は、とうに燃え尽きて消えてしまった。
私は、ずっと独り。仲間は既に――
「瞑葬《めいそう》。政府が動き出したわ」
少女の眠りを妨げる警報音と、聞き慣れた仲間の声。
「――そう。場所は」
重たい目蓋を擦っている暇はない。警報が鳴ったということは、それ程の事が起きたという事の証明に他ならないのだから。
「――東A地区の23番よ」
「そう」
彼女の服装を見るに、共に現場に行くのだろう。
「ねえ咎詠《とがよみ》」
瞑葬は今回、行動を共にする、咎詠という名を冠した少女に問う。
「何?」
「――貴女は、消えないわよね」
「急にどうしたの?消えないわよ、消えられないもの」
彼女はクスリと笑うと、身に纏った深い藍色の法衣を翻した。
本来彼女のような若者が、その法衣を纏う事は許されない。
藍は、言乃葉《ことのは》と呼ばれる魔術を主に扱う魔術師の着用する法衣の色で、その言乃葉発動の際に消費する術師の心の消耗を最小限に抑える特別な加工が施してある。
その言乃葉の完璧な取得には、相当の天才か神でなければ、最低でも30年の修行を要する。
咎詠は相当な天才でも、ましてや神でもない。只の――という表現は当てはまるかは微妙だが――少女である。
「さあ、行きましょう」
「……そうね」
そして二人は、消えた。