本編
□白銀の自称旅人
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王が涙の神託者であることを快く思わない者は多数いる。
彼らにとって涙の神託者は人ではないからだ。だが、国章にすら残す涙の神託者の、涙の初の力に人々は恐れ、何も言わない。
何より、風の術で言の葉を浮かせ、運ぶことのできる高度な術者たちなのだ。普通の涙の神託者にそんな力はない。
それだけ涙の初の力は普通の涙の神託者よりも強いのだ。
「今日はないのか?その風からのお便りはよ」
シロガネが尋ねた。
「…ないな。もしかしたらどこかに行ってるのか…もないな。命を狙っているヤツとかもいるし」
「…なるほど。じゃあ基本的には城にいるんだな」
シロガネがこちらに歩み寄り、言う。
「部屋にいなくてもいい。下見を兼ねて城に連れて行ってくれるな?」
リシアはシロガネを見る。
「下見ってなんだよ。まるで刺客みたいだな」
「ただの旅人だって言ってるだろ」
「はいはい。自称ね自称。…しっかし、結構大変だな。特に俺」
そうなるな、とシロガネは笑って言う。その爽やかそうな顔立ちがまた憎い。
「せいぜい頑張れ」
「…了解した。シロガネを地獄にとばさないよう頑張るよ」
「おい…本当に頼むぞ」
少し呆れ顔のシロガネを手招きし、二人してワープゲートに乗る。
「よし――…」
リシアは呟き、集中する。
脳裏には言語が浮かぶ。それを詠むことが詠唱になるのだ。
「――…開け空間を裂く扉、我らを意なる空間に導け!」
詠唱が完了すると、ワープゲートは灰色の光が強くひかり、次第にリシア達を包み込み、やがて光が弱まるとそこに彼らはいなかった。