本編
□玉座と粒子
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扉の前に立つと、何故かどっと不安が押し寄せた。嫌な予感、と言うべきか、扉から流れる空気が肺の底に溜まり、そこで蠢いているかのようだ。
グッと拳を握りしめ、扉を手の甲で叩く。
返事はない。
普段なら、ハーイと間延びしたユーキの返事と共に扉はガチャリと開く。開いた扉からふわりと甘い香りが鼻を通り、翡翠のような深緑の髪と髪より深い緑色の瞳が見える。
そしてユーキは、ようこそ!来るの大変だったでしょう?と、出迎えてくれるのだ。
握った拳が汗ばむのがわかる。
その手でドアノブを掴み、時計回りに回してみる。扉は鍵がかかっておらず、簡単に開いた。すぐさま中に入り、剣の柄に触れる。
あの柔らかな香りはなく、変わりに白い羽根が辺りに漂っていた。羽根は赤よりはピンクに近い絨毯の上に落ちると光の粒子となり、消えた。
「おや?リシアースさんではないですか」
誰かが自分の名を言ったのに気付き、声のした窓辺に目を向ける。
そこには白を基調とした、何故か所々に銃痕のような穴のあいたオルフィス教の聖職者をゆったりとした着のこなしをしている金色の髪の青年がいた。
手には灰色を帯びた四角い結晶と黒い革製の鞄。すぐ近くには人影がうずくまって倒れているのがわかる。
その青年を見て、リシアは目を見張った。
「な…なんで……」
そこにシロガネが別の空間に置いていた槍を取り出し、言った。
「やはりお前か!!」
青年は微笑み、赤い目が輝く。
「アルバ!!」