本編

□パンを分け与えよ
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 リシアはシロガネに向かって走る。道は固められてはいるものの土でぬかるんでおり、シロガネに追いついた途端滑って危うく転びそうになる。

「おーう、そこのよそもん、大丈夫かぁー」

 少し離れた所で鍬で畑を耕していた見知らぬ男性が言う。なんと恥ずかしいことか。リシアは俯きながら頷くと、シロガネは盛大に笑う。

「笑うなよ…」
「いやぁ悪い、悪い」
「たく…ここの人たち、見て見ぬふりしてくれないんだな」
「人間関係のしっかりした所だからな。でも、別に余所者嫌いって訳じゃない。むしろ少しは疑えよってくらい大らかだ」

 そう言うと、シロガネはスッと息を吸い込み、先ほど話しかけた男性に向かって言う。

「ここにアルバさんって人がいるって聞いたんだが、知らないかー?」
「アルバさんに何か用なのかー?悪いけど、アルバさんは数日前に遠出してったぜー」
「遠出?」
「そーそ。確か、タート川下ってったぜ」

 そうすると、水上都市ハルワタートか。シロガネは呟く。感謝の言葉を言ってからリシアは言う。

「無駄足になっちまったな」
「そういうこともあるさ。ま、遠出先が目的地なんだからまだいい方だ」

 どうせだから千年樹でも見に行こうか、とシロガネは提案する。リシアは断る理由もなく、むしろ好奇心から同意する。

 舞い散る花が頬に触れて溶けた。

執筆日 2013年10月27日
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