本編
□古の叫び
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『よかったね。目的が一つ果たせたじゃない。しかも本来の目的以上の力だよ』
『―そう。彼のお陰さ。あの文字が読める人なんて、もうこの時代にいないと思ってたんだけど』
『――いや、そうはいかないさ。一つ目の方も、彼に解読してもらわないと力は得られないよ』
『―――そう面倒くさがらないの。言葉が鍵になってるんだから』
『――――けど、随分懐かしい方の力を得てきたね。君のその冥の力は、僕と同類の』
『―――――あぁ、もう一人の子かい?君とは違うよ。きっと、あの子は』
シロガネは重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。そこはもう陰すらもあやふやな白い空間などではなく、岩肌が覆う場所であった。
靄のかかった頭が徐々に覚醒していき、考えられるようになってきた。
そうだ、赤い目の魔粒子生命体と対峙し、月の記録から流れ込んできた力を試してみたらとても効果的であったが、予想以上に体力を消費して、そして、それで。
シロガネはハッとし、起き上がる。リシアとアルバが驚いたようにこちらを見る。
「シロガネ、もう大丈夫なのか?」
「あぁ」
リシアがしまった、という顔になる。リシアは大丈夫か、と口に出す度に自分勝手に後悔するようだ。なぜかわからないが。
「突然倒れたのでそのまま寝かせていたのですが、どこか具合の悪いところはありませんか?」
アルバの問に、状況を理解した。どうやら本当に倒れてしまったようだ。実感がわかないが。
左腕を回してみたり、頭に手を当ててみたりして確かめるが、不調なところはないようだ。そのことを告げると、リシアもアルバも安心したようだ。
感謝の言葉を言って、アルバを見、ふと思い出した。
「急いでるってのに、こんなところで時間つぶしてていいのかよ。千年樹が待ってんだろ?」
「突然倒れた人を、放っておくことは出来ませんよね」
「世話焼きかよ…」
「それについてだ。シロガネ、起きた直後で悪いが話があるんだ」
リシアが言う。赤い目のアルバをこのアルバは知らないこと。アルバを監視してほしいこと。共にルタートに来てほしいこと。
「それってつまり、千年樹を復活させるまで付いてきてくれってことだろ。ルタートにまで行って、はい、あとは技師さんよろしくって済むような魔晶器じゃないはずだ」
「…そうですね、そうなってしまうでしょう」
「それだったら、サッサと聖地オリエルに行って姫さん救出した方早いって」
「船がでてれば、の話ですけどね」
アルバの言葉に、シロガネは言葉に詰まってしまう。
その通りではある。いつでるかは不明瞭。ハルワタートにずっと潜んでいるのは軍や宗教軍に見つかる可能性も高まり、望ましくはない。サダルフォンの技術団がメタトロニオス王国を去るまで、しばらく『狩り』のテロは行われるだろう。
そしてそのサダルフォンの技術団はルタートにいる。出て行け、という圧力はかける意味もないが、いつ出航するのか程度は分かるだろう。
しばらくして、シロガネは一息ついてアルバに言う。
「分かった。その代わり、異変があったらすぐにぶっ潰すからな」
言い方が少々乱暴だったためか、リシアは引き気味であるが、アルバは静かに目を伏せて頭を下げる。
「リシアはそれでいいのか?」
「構わないさ。実際、どうしようか迷ってたし、決断してくれてこちらも助かる」
優柔不断だな、とシロガネは言うと、リシアは間をおいて、そうだな、と頷いてしまった。リシアはどうにも、意思の弱さを感じずにはいられない。シロガネは立ち上がり、言う。
「それじゃ、行くか」
「もう身体は大丈夫なのかよ、シロガネ」
「まあな。あぁ、しいて言うならば」
リシアの不安そうな顔に、シロガネは一言呟く。
「腹が減ったなぁ」
一気にリシアが呆れ顔になる。アルバが笑う。
もう一人の子、と解読できる彼、か。