本編
□晦冥の力
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「冥属性は、単純に闇属性の強化と捉えられがち。しかし、本来の冥属性は、精神と肉体、どちらも斬る力を持つ。という」
「精神を斬る…?」
リシアは疑問を投げ掛けると、ウィズは答える。
「具体的には、精神不調、意識混濁、最終的には意識不明」
「つまり、攻撃できないものはない、と言ったところですか」
「ん。故に、魔粒子生命体にも非常に有効」
リシアとアルバの問いも簡潔に答える。リシアは気付く。
「じゃあ、シロガネが天使化してできるあの術も冥属性ってことですか?」
ウィズは頷く。つまり、烏のような羽を持つ人型を召喚する術は、単に属性混入による敵の弱体化のものではなく、すべてを斬り裂く力をもった術だった、と言うことか。
「とんでもない術だったんだな、あれ…」
「だからこそ、その反動は大きいということなのでしょう」
リシアの呟きに、アルバはシロガネを見ながら言う。いつも術に関しては自信満々なシロガネが、こうだ。
彼がいなければ、今頃オセルタやラニナに殺されていただろう。
いや、城に侵入した時に会った、あの魔粒子生命体にすら、勝てやしない。再び、どうしようもない無力感がリシアを襲う。
沈黙の馬車の荷台に、オレンジ色のヘメラ光が射し込む。外を見れば、やはり坑道を抜けており、ヘメラとニクスが同じ空の位置にある。
もうすぐニクスが空を覆う時間だ。