本編

□首に巻き付く強がり
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「…なるほど」

 シロガネは読み終えたのか、リシアに手渡す。それを不思議そうに受けとると、シロガネが一文を指差す。

『相談は、事を急ぐため、出来るだけ時空属性術発動時に行いたい』…リシアは頷く。あと、とシロガネが上の文章を指差す。

『リシアは魔晶器停止の際、助手を行ってもらいたい』…思わず、リシアは背筋が伸びる。

 まさか手伝えるとは思っていなかったからだ。ダメか、と言わんばかりに首をかしげるウィズに、やらせていただきます、と強く言う。

 そのあと、シロガネはアルバに案内され、寝室に行く。アルバが元の位置に戻った辺りで、なんとか全文読み終えられた。メモを、アルバに回すも、アルバは困った顔で受けとる。

「すみませんが、ウィズさんの文章は読めなくて……」
「………悪い。字が汚くて」
「いえ、あの、そういう意味じゃなくてですねっ」
「…サダルフォンの文章だと、読めないっていう話ですかね」

 気付いたリシアの解説に、ウィズはしまった、と言わんばかりに手で顔を覆う。それを見てアルバはこちらこそ、読めなくてすみません、と何度も頭を下げた。

 リシアとウィズが文章を読み上げ、アルバの役目の部分の説明をし終えると、窓に人影がいたのに気が付いた。
 リシアが、話をするふりをしてウィズに動作でゴーグルであの人影を見てほしい、という事を伝える。

 ウィズは頷きゴーグルを下ろしていくつか操作する。直接は窓を見ない。だが、すぐにゴーグルを頭に上げ、首を振る。涙の信託者(オルクル)ではない、ということか。やがて人影は、立ち去った。

「よく、子供が見に来るんです。気になっていたらすみません。夜に出てきてはいけない、とは言っているのですが…」
「いえ……人気者は、プライバシーも何もないですね」

 アルバの話に、リシアは言う。アルバは、満更でもないように照れ笑いを浮かべる。
 ウィズがまた再び書き物をしだしたのでリシアはその様子を見ていると、ウィズが手招きをして横に来るように指示する。

 どういうことかと指示のまま動くと、紙の上には簡易ではあるが魔晶器の図式があり、手伝いの説明を行うということだ。
 リシアのすることは別空間に置いてある荷物の手渡し位ではあるのだが、ウィズはその道具の意味から機器の説明まで付け加える。

 話こそは長く、シロガネがいたら大半は無駄とでも言うように、目的としている話からだいぶ逸れたものであったが、リシアにとっては真剣になる、とても為になる話であった。

「時間潰しにはなったか」
「いやいや、むしろありがたいです…!」

 ウィズに礼をしながらリシアは言う。アルバは、透き通る緑色の花瓶の埃を拭き取りながら、その様子を見守っている。
 リシアは咄嗟に別空間から取り出した物理学の本を掲げ、おどおどとしながら言う。

「……もしウィズさんさえよければ、説明や解説とかしてもらっても…いいですか!?」

 ん、と肯定するようにウィズは頷く。リシアは、ぱっと明るい表情になり、わからず、飛ばしていたページを開こうと捲る。

「まるでウィズさんが教師で、リシアさんはその生徒ですね」
「いや、俺みたいなダメな奴がウィズさんの生徒とか…申し訳なさすぎです」

 アルバの言葉に、リシアは答える。ウィズは、いや、と一言呟いて言い淀み、教科書の解説に入る。

執筆日 2015年10月19日
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