本編

□山光水色の森
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 リシアは弁解の為に言う。

「いや、後半は試しにやってみただけで毎日やってた訳じゃない!あと、俺は手持ち用の水樽は持ち歩いていない」
「おい!水樽なんて旅の常識だろうが!!」
「必要ないと思ってさ…」

 事実、中の水は飲んでない。水樽の底に嵌め込まれた魔力石に気付き、これが魔裂器であることに感動して少し遊んでみただけだ。

 メタトロニオス王国では魔晶器が発達している為、魔裂器というのは滅多にお目にかかれない。
 実験の機材で使うかサダルフォン連邦国の人が持ち込んできたかという所でしかリシアも見たことがない。サダルフォン連邦国のあるゾハール大陸とギルアド大陸は暑さと乾燥で厳しい環境にあり、水が欠かせないからこそ水樽も魔裂器として持ち歩いているのだろう。

 リシアはシロガネの水樽を通して異文化の器機に、胸から沸き上がる非常に強い好奇心が止まらなくなったのだ。

「そ、それに、一番の理由は料理に使った水だと思うぞ。そりゃ分解しようとちょっといじってみたら中から勢いよく出てきたのはビックリしたけどさ」
「一番の理由はそっちだろおおおおおおおお!!お前、何してくれてんだよおおおおおおおおお!!!」

 あ、とリシアは気付く。黙っておこうとしたことが思わず漏れてしまった。しまった、と思ったが取り返しはつけない。
 と、恐る恐るとカルスはシロガネの脇から顔を出し、言った。

「この先に水樽業者も足を運ぶくらい綺麗な泉があるよ。そこで汲んできたらいいんじゃない…かな?」
「ここからどの位離れている?」

 と、シロガネが尋ねると、カルスは指を差して、ここを真っ直ぐ行った先、と言った。シロガネが立ち上がる。それより先にリシアが言う。

「俺が汲んでくるよ」
「仕組み分かるのか?ぶっ壊したら三万オーラム弁償してくれよな」

 一度壊しかけたが、とは流石に言えず、苦笑いを浮かべてリシアは頷いた。
 少々、いやかなり怒っているようだ。責任は勿論自分にあるのだから、汚名返上はしなければならない。

 リシアはカルスの差した、夕暮れの道のに向かって歩き出した。

執筆日 2013年1月20日
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