本編

□擬人に心、暗に鬼
10ページ/10ページ


 パチンと木が弾ける音が静かな森に響く。シロガネは空を仰ぎ、息をつく。

「……それでも、寝た方がいいんじゃないか?ノンレム睡眠ってのなら夢だって見ないんだろ?」
「言っておくが、あくまで夢を見るのはレム睡眠中であることが多いってだけだ。これで覚醒した場合、夢の内容を覚えていることが多いらしいってだけ」

 ふーん、とシロガネはリシアの解説など耳にもしてないように返事をする。それでもリシアは言う。

「あと、入眠時にはまずノンレム睡眠が現れて、約1時間から2時間ほどでレム睡眠に移るんだ。それからノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、レム睡眠はほぼ90分おきに20〜30分続く。1つの睡眠にレム・ノンレムが単独じゃない」
「寝ろ」
「話聞いてたか?」
「お前が夢にすら怯えてるのは分かった」

 リシアが驚いたようにして顔を上げる。シロガネの表情には慰めるような、それでいて困ってるようなものを浮かべている。

「俺はお前に何があったのか知らないし、聞くつもりもない。それに、俺がどうにかしてやれるもんでもない。ただ、また寝落ちされるのも困る」

 リシアが返す間もなく、シロガネは言う。

「休め。暗闇はそこにあるだけなんだ。何もしてこない。何かあるとしたら、それは自分の心にいる鬼だ、幻影だ、恐怖心を煽る何かだ」
「それに勝てなかったらどうする」
「立ち直るまで喝でも入れてやるよ」

 赤い光に照らされたシロガネは、笑顔に見えた。それだけで不思議とリシアの心はスッと和らぎ、胸に残った何かが融けてどこかに消えた。

執筆日 2013年10月22日
Next⇒パンを分け与えよ

次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ